公益通報制度

○公益通報制度とは

「公益通報」とは、①労働者等が、②役務提供先の不正行為を、③不正の
目的でなく、④一定の通報先に通報することをいいます。

 

①「通報する人」(通報の主体)は、労働者等(労働者・退職者・役員)

②「通報する内容」は、一定の法令違反行為

③「通報の目的」が不正の目的でないこと

④「通報先」は3つ(①事業者内部、②権限を有する行政機関、③その他の事業者外部)

引用:公益通報ハンドブック

 

公益通報は上のように定義されており、4つの条件を満たすことが必要です。

①では通報する人は基本的にはその組織で働いてる/働いていた人と定められています。

②では対象となる法律が定められており、こちらからその一覧を見ることができます。

(PDFへの直接のリンクはこちら

 

次世代運動に強く関連する法律としては医師法、医療法、介護保険法、健康保険法、歯科医師法、保健師助産師看護師法、薬剤師法、理学療法士及び作業療法士法などが挙げられます。

また一定の法令違反行為とはこれらの法律に違反し犯罪行為や過料対象行為となるものとされています。

③では通報が不正の利益を得るためや他人を陥れるためのものではないことが求められています。

④では通報先の指定がされています。行政機関に関しては「処分などの権限を有する機関」に通報することが必要なので、たとえ同じ組織からの通報でも健康保険法→厚生労働省、個人情報の保護に関する法律→総務省、など違反している法律によって通報先を選ぶ必要があります。

 

つまり具体例を挙げると、病院で

①医師(あるいは看護師や事務員などの従業員)が、

②他の医師が自ら診察せずに診断書や処方箋を発行している事実を(医師法第二十条違反、第三十三条の三に罰金の規定あり)、

③その医師に損害を与えるなどの目的でなく、

④病院内の担当部署あるいは地方厚生局(厚生労働省の地方支分部局の一つ、医療・健康・福祉・年金などを担当)等の行政機関に

通報する場合などが考えられます。

 

〇それ以外の通報

しかし、これは基本的に従業員が通報するものであり、対象となる法律も懲役、罰金、過料などの罰則が定められているものに限られます。

これは公益通報者保護法が内部告発者を保護する目的で作られた法律であるためです。

そのため、病院の患者や介護施設の利用者は通報者として想定されていませんし、保険の不正請求に関しては刑罰の規定もないため公益通報として扱われることはありません。

保険医療機関等の診療報酬の不正請求に関する通報については、健康保険法(大正11年法律第70号)等に刑罰(懲役や罰金)を科す規定がなく、公益通報者保護法(平成16年6月18日法律第122号)に基づく公益通報の要件に該当しないため、法に基づく公益通報として受理することはできません。

引用:関東甲信越厚生局>公益通報保護

 

 

○ではどのように通報するのか

では健康保険の不正請求に関して患者は何もできないのでしょうか。そのようなことはありません。

ただし、このような通報については、他の法令違反の恐れもあるため、保険医療機関等を管轄する当局の事務所(埼玉県の場合は、指導監査課)に直接お寄せいただきますようお願いいたします。

引用:関東甲信越厚生局>公益通報保護

 

上記のような記載がなされており、公益通報の要件には該当しない案件でも通報を受け付けてもらえます。

 

 

○不正請求に該当する事案

過去に処分が下された不正としては以下のようなものがあります。

 

・架空請求:受診していないにも関わらず受診したものとして保険請求している

→患者が医療費通知を確認したところ受診した覚えのない月に記載があることから発覚(実際の事例)

 

・水増し請求(振替請求):実際に行ったものより高い点数の治療を行ったものとして保険請求をしている

→外来診療を受けている患者の領収書に在宅医療と記載があったため発覚(実際の事例)

 

・処方箋の付け替え:実際に調剤した薬局と別の薬局で保険請求をし、調剤基本料の減額を回避しようとする

→職員の内部告発によって発覚(実際の事例)

→この件は医療費通知の確認でも患者側から発見できる内容である

 

・看護要員の配置の不正:実際よりも多く看護師を配置しているという記録を捏造し、高い入院基本料を保険請求している

→職員の内部告発によって発覚(実際の事例)

 

・水増し請求(付増請求):実際には行っていない治療の保険請求をしている

→匿名の者からの情報提供で発覚(実際の事例)

 

・無免許診察:医師不在のため薬剤師が診察を行い、医師が診察したと偽って保険請求している

→警察の逮捕で発覚(実際の事例)

 

・水増し請求(振替請求):値段の安い後発医薬品を渡しているのに値段の高い先発医薬品を渡したとして保険請求している

→匿名の者からの情報提供で発覚(実際の事例)

 

・無資格者による処置、軟膏の調合

・無診察投薬:診察せずに投薬をしている

→匿名の者からの情報提供で発覚(実際の事例)

 

またそれ以外に今行われている/今後行われる可能性の高い不正として以下のようなものが考えられます。

 

・診療時間が5分未満なのに通院・在宅精神療法330点が算定されている

→「通院・在宅精神療法は、診療に要した時間が5分を超えたときに限り算定する。」とされているため診療時間が5分未満であれば不正請求が疑われる。(医科診療報酬点数表 I002の注2参照)

 

・療養計画書が作成されていない、あるいは患者が署名をしていないのに生活習慣病管理料(I)(脂質異常症610点、高血圧660点、糖尿病760点)あるいは(II)(333点)が算定されている。

→「生活習慣病管理料(Ⅰ)は、(中略)丁寧に説明を行い、患者の同意を得るとともに、当該計画書に患者の署名を受けた場合に算定できるものである。」((II)も同様)とされているためこれらの条件が満たされていない場合は不正請求が疑われる。( 医科診療報酬点数表に関する事項 B001-3(2)参照)

 

 

〇実際の通報の手順

通報の手順は通報先によりいくつかの手段が考えられますが、最も簡単でどこでも受け付けている方法が電話です。

健康保険に関しては各都道府県の厚生局事務所が窓口となりますので、およそ以下のような流れになります。

また、通報時は名乗ることもできますが、完全な匿名での通報も可能です。

 

①対象の医療機関が存在する都道府県の事務所に電話します。

②「保険の不正請求の疑いがあるので情報提供をしたい」と伝えれば担当者に代わってもらう

③情報の内容を伝える。5W1Hが埋められればベストですが、医療機関名と不正の内容、それがいつ頃の話かだけでもよいと思います。また、不正に巻き込まれた本人なのか、人から聞いた話なのか、常習的にやられているのかなども聞かれると思います。

④厚生局側から確認事項がある場合に備えて電話番号を聞かれるかもしれません。伝えても伝えなくてもどちらでも大丈夫です。

 

残念ながら通報の結果指導や監査が行われたとしても、通報者に情報が来ることはありませんが、あまりに悪質で保険医や保険医療機関の取り消し処分がなされれば上記の事例のように公表されることとなります。

 

 

○各県の通報先の窓口

北海道厚生局

北海道

 

東北厚生局

青森県 岩手県 秋田県 山形県 福島県 宮城県(指導監査課)

 

関東信越厚生局

茨城県 栃木県 群馬県 埼玉県 千葉県 東京都 神奈川県 新潟県 山梨県 長野県(一覧ページです)

 

東海北陸厚生 公益通報に該当しない場合でも「ご意見・ご要望」フォームから送信が可能

愛知県 富山県 石川県 岐阜県 静岡県 三重県(一覧ページです)

 

近畿厚生局

大阪府 福井県 滋賀県 京都府 兵庫県 奈良県 和歌山県(一覧ページです)

 

中国四国厚生局

鳥取県 島根県 岡山県 広島県(指導監査課) 山口県

 

四国厚生支局

徳島県 愛媛県 高知県 香川県(指導監査課)

 

九州厚生局 公益通報に該当しない場合でも「ご意見・ご要望」フォームから送信可能

福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 沖縄県 (一覧ページです)